本日、シラス「三国志ラビリンス」にて「『三国的世界』を読む」を配信いたします。CCTV制作の「三国的世界」自体はYouTubeにて無料配信されています(漢語字幕)。
前回より「横槊悲歌観滄海」すなわち曹操をテーマにした第三集に入っています。
今回のテーマは曹操の「遺令」。
曹操の遺言は魏志武帝紀に収録されているものがよく知られています。
遺令曰。天下尚未安定。未得遵古也。葬畢。皆除服。其將兵屯戍者。皆不得離屯部。有司各率乃職。斂以時服。無藏金玉珍寶。(遺令に曰く。「天下はいまだ安定しておらず、古例に従うわけにはゆかない。埋葬が終わったら、みな喪服を脱ぐように。駐屯している将兵は任地を離れてはならぬ。役人はみな職務に務めよ。棺に収める際は平服を用い、金銀財宝を副葬せぬように」)
番組中ではこの遺令では言及のない遺言にも触れています。これは陸機(261-303。陸遜の孫。陸抗の子)の著した「弔魏武帝文」(西晋元康8年[298]の作か。『文選』巻60所収)に拠ります。
又曰。吾婕妤妓人。皆著銅雀臺。於臺堂上。施八尺牀。張繐歳。朝晡上脯糒之屬。月朝十五日。輒向帳作妓。汝等時時登銅雀臺。望吾西陵墓田。又云。餘香可分。與諸夫人。諸舍中無所為。學作履組賣也。吾歷官所得綬。皆著藏中。吾餘衣裘。可别為一藏。不能者。兄弟可共分之。既而竟分焉。亡者可以勿求。存者可以勿違。求與違。不其兩傷乎。悲夫。愛有大而必失。惡有甚而必得。智惠不能去其惡。威力不能全其愛。故前識所不用心。而聖人罕言。若乃繫情累於外物。留曲念於閨房。亦賢俊之所宜廢乎。遂憤懣。而獻弔云爾。(又曰く。「私の婕妤妓人はみな銅雀臺に移し、臺の堂上に八尺の臺を設け、薄絹の帳を張り、朝晩には乾肉(ほしにく)や乾飯(ほしいい)を供えよ。毎月一日と十五日には、帳に向かって歌い舞え。おまえたちは常々銅雀臺に登り、我が西陵の墓を望め。」又云う。「餘った香は諸夫人に分け与えよ。生計の立たない側室は、飾りのついた靴(履組)の作り方を学んでこれを売れ。私が歴任していた官職の綬はみな蔵に収めるように。私の餘った衣裘は別の蔵に収めよ。一つの蔵に収まりきらない場合は、兄弟でこれを分けよ」と。しかし、亡くなった後、その衣裘はすべて分けられてしまった。死にゆく者は求めるべきではないし、生者は違うべきではない。求めることと違うこと、ともに傷ましいことではある。悲しいかな、大いに愛惜していてもいつかは失い、甚だ憎んでいても得ることもある。智慧ある者でも憎悪するものを除くことはできず、威力を持つ者でも愛惜するものを全うすることはできない。故に古の識者は愛惜と憎悪を心にかけず、聖人もめったに口にしなかった。外物に思い煩いを残し、家庭に未練をとどめるようなことは、賢俊がすべきではない。かくて憤懣し、ここに弔辞を献ずる。)
やや長い引用ですが、曹操が夫人や側室・妓女に残した遺言に言及してはいますが、同時に陸機は否定的な評価をしています。しかし、番組はそれについては言及がありません(そもそも出典の明示もないのですが)。